FF14

イワシが翔んだ日

全国的に松の内が明けた、1月15日——。

 

夫は予感していた。
いや、確信と言っていいだろう。

 

帰宅した自分を出迎える嫁のひと言が、例の〝アレ〟についてであろうことを……。

 

「ねえ! 知ってた!? 青魔道士って、イワシ吐けるらしいのよ! イ・ワ・シ!」

 

玄関ドアを開けるが早いか、嫁のセリフが耳に飛び込んでくる。
ビンゴ! さすが、俺!
予想通りの展開に、夫は内心でサムズアップさえしていた。

 

 

ということで、夕食後。二人のほうが効率よくラーニングできるのではないかと、『夫婦で青魔道士になろうツアー』の開催を夫が提案。これに嫁もふたつ返事で了承したが、出発前に畑の手入れをしてから向かいたいとのことで、各人用事を済ませてからのスタートとなった。

 

「じゃあ、ET20時にリムサで待ち合わせね! うーわー、すっごい楽しみっ!」

 

満面の笑みを浮かべ、ウキウキと弾んだ声でそう言うなり、エーテライトに駆け寄っていく。セリフだけ聞くと、まるでデートの待ち合わせのようだが、ちょっと待って欲しい。嫁が楽しみにしているのは、夫と出かけることではなく、さりとて青魔術師になることでもなく、ただただイワシを吐けるようになることだ。

 

(イワシ吐けるのそんなに嬉しいかなあ……?)

 

疑問に、夫が小首を傾げる。恐ろしい勢いで口からイワシを吐くメスッテ。吐くって、胃袋に貯めておいた生魚を? それとも魔法で作ったそういう形のエーテルを吐くとでも? いずれにしろ、ギリアウトなんじゃないかとも思うのだが………………いや待て、細かいことを気にしすぎるのもつまらなかろう。夫は思い直した。

 

むしろここは、嫁がイワシを吐くところをつぶさに観察すべきだ。うん!
すべての疑問をえいやっと棚の上にあげた夫は、
青魔道士 イワシ吐き習得ツアーに参加すべく、リムサへ向かった。

 

 

リムサでイエロージャケットの警備兵からクエストを受注。
詐欺を働いていると思しき人物を、共に追って欲しいとのことだった。
指定された現場には、青魔道士と名乗る男———マーティンが。

 

 

「うっわ! うっさんくっさー! コイツ、胡散のニオイがプンプンですよ!」

「いやいや、どうして、案外こういうヤツに限って……」

 

 

「わははは! 真っ黒じゃん! ダメじゃん!」

「ふひひひ! 真っ黒だね! ダメだね!!」

 

夫婦揃って画面を指さし、大爆笑。
面白クエストのニオイがする! と、嫁は大はしゃぎだ。

 

悪事の可能性ありと判じたイエロージャケットの警備兵が、マムージャ族と談笑していたマーティンに詰め寄った。だが彼は、詐欺といわれるのは心外とばかりに反駁。マムージャの二人はサクラではなく実演販売の助手で、ソウルクリスタルも正真正銘の本物と一歩も引かない。そこで、ヒカセンにお鉢が。マーティンがした説明の真偽のほどを確かめてもらえないかと、警備兵が頼んできたのだった。

 

 

マーティンからソウルクリスタルを借り受け、青魔道士の服に着替えるヒカセン。

 

 

「おおおーーー! いいじゃん、青魔の服! 可愛い!」

「はいはい。可愛い可愛い」

 

続く、マーティンの説明はこうだ。
今からクラーケンの幼体を呼んでやるから、その水鉄砲を食らって技を覚えろ、と。
なんという大ざっぱ、かつ、行き当たりばったり。
面白クエストの特徴とでもいうのだろうか。

 

 

———で、呼び出した小タコを見て、この表情である。

 

「わははははは! 超でっかいー!! そんなことだろうと思ったよ!!」

「クラーケンの幼体って聞いたときから、嫌な予感しかしなかったw」

 

とはいえ、無駄に丈夫なヒカセン。
クラーケンの水鉄砲の2、3発くらい、難なく耐えられるハズ。
そう思っていた時期が、私にもありました……。

 

 

「もー! 何発、当たらなきゃならんのよー! なんなのよー!」

「わはは! 頑張れ! もうちょっとだ! たぶん!」

 

なーんの魔法も覚えてないから、杖で殴るしかない。オートアタックのみで、ポクポクとタコ殴りする絵面がなんともシュールだ。その間にもクラーケンの幼体からの水鉄砲は、右から左から、ひっきりなしにビチビチと発射されまくる。どうしたらいいかわからない状態に困惑する嫁を、夫は大笑いしながら適当に応援した。

 

その甲斐(?)あって、無事にラーニングは完了。
しかしイエロージャケットの警備員は、まだまだ疑っている!
そりゃそうだ。誰だって信じないだろう。

 

 

「わーい! 入門セットもらったー! 案外いい人じゃない!? マーティンって!」

「……騙されてる………騙されてるよ」

 

もらったカンタン入門セットを、いそいそと身につける嫁。
やばいぐらい現金すぎる…………。

 

青魔法を学んだという証拠である『水鉄砲』を使ってみろとのこと。標的としてオススメされた泣男のラトージャくんに、見事ぶち当てることに成功すれば、自分が販売していた量産型のソウルクリスタルでも、青魔法を覚えることができたということになり、つまりは今までの一連の商法が詐欺ではないことの証拠になるはずだ、というのがマーティンの弁だったが………

 

 

「ま、こうなるよね。当然だよね」

「ごもっともだと思いますー。物で釣ろうっていうの、よくないと思いますー」

「えっ!? さっきまで青魔の服着て、ウキウキしてたじゃん!?」

「まあまあ、それはそれ。これはこれだよー」

 

などと夫婦間でわちゃわちゃ言っていると、がっくりと項垂れていたマーティン@無職なうに鶴の一声が掛かった。ブロンドのショートヘアも凛々しいその声の主は、ウルダハに新設された闘技場「ブルースカイ」の支配人——ロイス女史である。自身が運営する『マスクカーニバル』に出場してみないかとマーティンをスカウトするものの、彼はこの誘いを一蹴。

 

 

「えっ!? 断った!? 無職なのに、断ったよ!」

「おいおい、金に困っているんじゃなかったのかよ………?」

 

夫婦そろって驚いていると、含みのある言い回しでロイス女史が続ける。

 

 

「………………ああ。うん」

「そうね! 儲かるかどうか、そこんとこハッキリしないと返事できないよね!」

 

そんなこんなでマーティンは「ブルースカイ」の看板闘士に就任、ヒカセンは未来のスター闘士を目指して彼の弟子になることに。女史が発したギャラの上乗せ」という魅惑のひと言で、弟子を取ってしまうマーティンに不安しか感じられない。

 

「こんな師匠で大丈夫か…………?」

「……大丈夫だ、問題ない———わけあるかーい! 問題しかないでしょ!?」

 

果たして、手のひらクルックルな師匠に稽古を付けられる、ヒカセン@新人青魔道士の今後は!? 嫁は無事にイワシを吐けるようになるのか!? 吐き出すイワシは生なのか、調理済みなのか!? 青魔道士 イワシ吐き士の明日はどっちだ!?

 

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