FF14

この世界のどこかで ②

「待って、ブリナちゃん! ストンジャはやめて! ここ狭いから! 岩当たっちゃうから!」

 

間抜けなセリフが、嫁の口を衝いて出るが早いか ———
錬金術師ギルド内がまばゆい光に包まれる。
そこに響く、一声。

 

「だめ………喧嘩しちゃだめよ………ふたりとも………」

 

 

セヴェリアンとワ・ブリナを止める、ワ・ナージャの声。
ぽかーんと口が半開きになっている嫁。
鳩が豆鉄砲を食ったような、びっくりした表情で呆然と画面を見つめる。

 

「———うそ……。えっ…………待って、ホント……!?」

「おいおい、マジかよ……」

 

『錬金術は万能ではない』派の夫もこれには驚いた。

 

エオルゼア風に言うならば、不可思議なことは「だいたいアラグのせい」にできちゃう、この世の中だ。多少の超展開なら許せる。その筆頭ともいえる『アシエン』の登場には、「なんだよ、アシエン、超便利じゃん! 俺の顔をコピーさせて、代わりに働いてきてほしいぜ」などとのたまっていた夫であったが、こと一般市民となると別である。ドラゴンボールの登場人物が、「実は、全員スーパーなんとか人でした!」じゃ面白くないだろう? な?

 

 

ワ・ブリナの声に、ゆるゆると振り返るセヴェリアン。
このときの表情がまた切ない。

 

全ては正しく行われたとセヴェリアンは言ってたけど……、心の底のほうでは信じてきれていなかったのかもしれない。いちばん驚いているのはセヴェリアンだったのかもね、と嫁。

 

 

「セヴェリアン……? 酷い顔、また徹夜したのね、今度は一体、何の研究?」

「大事な……とても大事な研究をしていた。だが、もういい。いいんだ。私はただ、ずっと君に謝りたかった……」

 

 

「君を亡くして、ふたりの日々を思い返した。私は研究のことを語り、君は微笑みながら聞いてくれて……呆れるほど、そんな思い出しかなかったんだ」

「もっと、君のためにできることがあったはずなのに……すまない。君を、幸せにできなかった」

 

セヴェリアンの言葉を、すすり泣きの声が追う。
もちろんワ・ナージャではなく、となりで嫁が嗚咽する声である。

 

 

「……馬鹿ね。私は、そんな貴方を愛しているのよ」

 

愛して〝いる〟のだ。今もなお。以前と変わらずに。
セヴェリアンが費やした5年間は、けして無駄ではなかったと思いたい。
この一言を聞くための、彼なりに、愛に生きた5年間だった。

 

 

セヴェリアンの後悔とともにワ・ナージャが消え。その場に残されたのは、少しだけ晴れやかな表情になった、普段どおりに言動がおかしな錬金術師ギルドのマスターだった。

 

■ 

 

「——— いいお話、だった……。また、泣かされた……」

「ああ、今回も大泣きだったな」

 

ムービーが終わり、しばらくして鼻をかみながら嫁が言った。夫が同意すると、つと顔を上げ、嫁は泣き腫らした目をゲーム画面に向けた。モニターには錬金術師ギルド内の様子が映っている。室内の各所に配置されたNPCが、各人様々なモーションをとり、それぞれが自分の仕事をこなしているような、ゲーム内風景を作り出していた。

 

「この人たちにも家族だったり、過去だったり、いろんな背景があるのかなぁ」

「作り込みすごいって聞くし、あるかもな」

「この世界のどこかで、誰かが生まれて、誰かが亡くなって……。現実でもそうだけど……。でも、そうやって、歴史ってできていくんだなぁって、ちょっと思った」

 

嫁は、めずらしく神妙な顔をしていた。

 

「ヒカセンとか、有名人だけに歴史があるわけじゃなくってさ、フツーの人たちにもちゃんとそれぞれのがあるって……。そういうことを改めて教えてくれる、FF14っていいね。すてきだね」

「そうだな……。ところで、キットカット食べるか? イチゴ味だぞ」

「わーい! 食べるー!」

 

キットカット・イチゴ味に、テンションを爆上げした嫁。次は暗黒騎士のジョブクエで、ふたたびガン泣きする羽目になろうとは ——— ヨルダンスに振り付けが酷似した〝チョコ音頭〟なるものを踊りながら、キットカットをほおばる嫁の知るところではなかった。

 

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